ICT教育推進研究所の研究室

ICT支援員→小学校教員が「ICTの効果的な利活用」をテーマに、授業記録・情報教育・情報通信技術(旧ICT)支援員について書いています。

三鷹市プログラミング教育推進校の取り組み~ゼロから始めるプログラミング

1月24日、私は休暇をいただいて東京三鷹市のプログラミング教育推進校の研究発表に出かけました。ICT支援員として関わっていない地域の学校へ赴くのは初めてなので少々緊張しましたが、多くのものを学ぶことができましたのでご報告したいと思います。

 

なお撮影画像はSNS等への掲載不可の通達がありましたので、文面のみとさせていただきます。

 

 

各学年の研究授業とICT環境を学ぶ

 

この日は電車が事故で止まり別ルートで回避する展開となりましたが普段使わない路線に乗るのもそれはそれで楽しかったです。

 

会場の学校にはかなり早く到着し、授業前の教室の様子を見ることができました。

ここで驚いたのは普通教室に天吊りプロジェクタが整備されていたこと。後にこちらがICT研究校も併せていたことによるものだと分かりましたが、即時性だけでなく板書と半々で使えることやプロジェクタの設置位置を考える必要がないことは大きな利点と捉えました。

結論。やっぱり天吊式はいい。

 

各学年の内容を見ると、1年生はアンプラグド、2年生、5年生がScratch、3年生、4年生、6年生がMESHと多彩なラインナップでした。その中で見てみたかったのは1年生、2年生、5年生、6年生でした。

 

1年生のアンプラグドはおもちゃの作成手順をフロー化して実際に製作するものでした。低学年のプログラミングとして一番使いやすい指導法だなと改めて感じましたし、これは2年生国語「おもちゃの作り方」にも活かせると思いました。

 

2年生のScratchは生活科「あしたへジャンプ」とあり、どんなことをするのか興味がありました。この単元は支援員時代にアルバムの表紙作りを何度か支援しましたが、それをScratchで表現したものでした。単に画像と文字だけにするよりも動きや背景を多彩にすることができるので、こういう方法もあるなと感じました。

 

5年生は王道「正多角形の描画」でした。ちょうどこの後私が勤務している学校で実践予定なので実際の授業展開を学ぶ良い機会でした。

子どもたちは単元で学んだ知識を活かして様々な多角形をプログラミングし、スプライトに描かせていました。リセットプログラムや使用するプログラムをあらかじめ組んでおくことで子どもたちの操作ミスでトラブルが起きることを回避させていたのも順調な授業展開を実現させた要因だと思いました。

振り返りではこれまで行ってきた紙での作図と比較し双方のメリット・デメリットを踏まえた上で自分の考えを述べられていたことが良かったです。

 

6年生はMESHを使った電気単元でした。手動で動かした場合とプログラムで動かした場合でどれくらい電力を節約できるかをグラフでまとめる展開でしたが、子どもたちはMESHの様々な機能ボタンを使って各々が活動をしていました。ここで気になったのが蓄電量がひと目で分かるキットを使っていたことで、後ほど教材会社さんから資料をいただき色々検討しようと思いました。

 

研究発表・講演の様子

授業終了後はMESHの体験会が行われていました。地元の学校もそうですが授業終了後に実際体験できる機会が設けられていることで他校の先生がプログラミングに触れられるとてもいい機会だと感じました。

 

研究発表ではこの学校のプログラミング教育への取り組みが紹介されました。

この学校ではプログラミング的思考を「見通す力」「改善する力」と設定し、知識や経験を活かして予想予測する見通す力で活動し、思ったとおりにならなかった時は改善する力で修正するといった「トライ&エラー」を繰り返すことでプログラミング的思考の育成を目指していました。

算数ではプログラミングを単元の最後に実施することで学んだ知識を活かす機会を設け、理科ではMESHなどの活用で試行錯誤の機会増加。そして総合は各学年プログラミングの時間を12時間設定し、系統的な指導を施すことで見通す力と改善する力の育成を目指しました。

その結果、子どもたちは繰り返し取り組もうとする態度が増えたり、プログラミングが楽しいと思えたりと教科のねらい達成や意欲づけにつながったこと、先生としては指導要領から外れない指導の実施、プログラミング的思考を育成すべき手法が見通せるようになったといった成果が上がったそうです。その反面ネット環境、端末が足りないといった整備不足やカリキュラムの再編を余儀なくされたこと、情報リテラシーといった操作習得の時間確保が課題として挙げられました。

 

最後に聖心女子大学の榎本先生による講演「ゼロから始めるプログラミング」がありました。

簡単にまとめますと

 

・プログラミング教育は社会と結びつけ体験させること

・情報活用能力が資質能力に加わった=人として必要なものとして認識すべき

・できるようになる より やってみることが大切

・プログラミングは手順が100%再現できなければならない

・予想⇒実践⇒理解⇒言語化することが大事

・アンプラグドだけはダメ、アンプラグドから始めよう

・プログラミングは生活指導にも使える。起きた事象を順序立てて考えさせればどんな子どもも理解する

・中学校の「双方向プログラミング」はScratchのスプライトにセリフをつけるだけで実践可能(これは目からウロコでした!)

micro:bitもセンサーだけ利用すればMESHの代わりになる

・環境が揃わないから、お金がないからでは何も始まらない。今一度教科単元を見直し、プログラミングが活かせる場面を見つけられれば誰でも教えられる

・失敗してもマイナスにはならない。むしろ授業改善につながる

 

この先生のお話は初めて聴講しましたが、先生方の不安を払拭するような分かりやすい内容で大変驚きました。私も同じような考えを持っていますのでこのお話を持って地元でもプログラミング教育の疑問解決に役立てたいと思います。

 

所長の感想

まず多摩地域の東側だし、少し環境はいいんじゃないかと少々の期待を持って参加しましたが、当該校の場合はこのような環境でした。

 

児童用タブレット 40台

iPadとノートパソコン 教員人数分

MESH 5セット程度(今回はSONYと教材会社から貸与)

 

これを見ると児童用が1クラス分と地元と同じ台数で驚きました。ただ既出したように天吊プロジェクタが各教室に配備やアクセスポイントが教室内に2つある、iPadが配備されている点を考えると、地元より少し良いレベルだと感じました。

 

実はこの学校でICT支援員時代に関わった先生との再会がありました。その先生から詳しい環境面のお話と思いを伺うと、私と同じ見解で、プログラミング教育をするにも端末の台数が足りない、予算がないといった環境面の不備が大きいと嘆かれていました。

 

いよいよプログラミング教育本格実施は目の前に差し迫ってきています。東京都ですらこの現状なので、予算が少ない他府県のことを考えると果たしてこのままでいいのか?と非常に危機的状況であると捉えています。

ICT環境は今すぐ整備することは難しいのは明らかですので、まずは榎本先生が提言された教科単元の中からプログラミングを実践できるものを探し、フローやベン図で表現したり、無料で実践できる様々なWebサイトの利用などを重ねたり、教材会社を通じて教材を貸与してもらったりする。GIGAスクール構想など国の政策を利用するなどして予算確保に結びつけるのが良いのではないかと思います。

 

今回の参観では大変多くの学びを得ることができました。こうした気付きを学校現場に持ち帰り授業や先生方への指導に活かしたいと思います。

 

最後までお読みいただきありがとうございました。ご参考になれば幸いです。