ICT教育推進研究所の研究室

ICT支援員→小学校教員が「ICTの効果的な利活用」をテーマに、授業記録・情報教育・情報通信技術(旧ICT)支援員について書いています。

【プログラミング教育】研究授業その1 ~動作環境との戦い~

※まずはじめに、本活動のブログ掲載を快諾いただいた校長先生に感謝申し上げます。ありがとうございます。

 

 


研究所として初めての仕事は都内の公立小学校で、かつての担当校です。
この小学校は東京都が推進する「プログラミング教育推進校」指定校で、今後2年間様々な研究を行います。
支援員時代、私はちょこちょことプログラミング教育に関する情報提供を行ったり校長先生と相談したりしていました。その後推進校に決まり、夏休みには研究部会にアドバイザーとしてお呼びいただき、先生方の質疑応答にお答えしました。
そして今回、学校様から約3週間に渡り研究授業をサポートする形で依頼を承りました。
なお活動内容としては主に以下のことを実施しました。

・授業支援(基本T2。場合によってT1)
・先生方への状況報告・アドバイス
・環境整備

 

 

環境の悪化と悲鳴の連続

 
当該校のコンピュータ環境は決して恵まれてはいません。
・OS:Windows7 Core-i3 メモリ2GB
・形状:ノートパソコン
・設置場所:パソコン室(普通教室での使用不可)
・稼働年数:7年

久しぶりに訪れ、動作を確認してまず一番に私が驚いたのは、担当していた時代よりも児童機の動作が遅くなっていたことです。電源オンからデスクトップ画面に遷移するまで約5分以上かかり、その処理速度はかつての軽快さを失っていました。一度該当学年の授業をサポートしましたが、この状態でインターネットからScratchを起動しようとしても画面は白いまま。児童は待つことができないためどんどんマウスをクリックしさらに悪化させる状況に。しまいには画面がフリーズする始末。また児童のパソコンスキル(情報リテラシー)も高くなく、この日は授業として全く体をなさず、トラブルや操作面の対応に振り回される非常に厳しい状態でのスタートとなりました。

 

プログラミング教育が求める観点と教科が求める観点


今回の研究授業は小3の図工科で、児童が描いた絵をデータとして取り込み、これをScratchで読み込ませプログラムで動かすという内容です。先生は色々なことを試したかったようですが、先のスキル不足や児童機の動作状況を考えると難しく、徐々にそのハードルは下げざるを得なくなりました。

授業後の協議会では図工の先生、学級担任の先生、部会の先生、私でほぼ毎回話し合いをしました。その中で一番の懸案事項だったのがプログラミング教育の観点と図工の観点をどうするか、でした。

操作スキルに注目すると教科としての観点が、教科の観点に注目するとプログラミング的思考などの観点が落ちることから、これらの観点をどう両立していくか。これはとても重要かつ大きな課題で、意見が全く出ない状態が続きました。
数時間に渡る会議の結果、今の児童には図工の創造性や発想力以前に操作スキルが不足している。そのためにはまずScratchの基礎技能を向上させることが先決であるという意見が導き出され、まずこれを達成する指導を実施することになりました。

この時点での全体な流れとしては
情報リテラシーの習得とScratchの基本技能習得
②図工科の観点に基づいた活動


としました。

プログラミング的思考の部分はフローチャートに近い設計図を児童に書いてもらい、この流れを意図的に実現できるプログラムを作る学習活動で実現可能と判断しました。

そして図工の観点ではロボット的な動作ではなく、いかにリアルに近づけるか
動きは1つではなく複数組み合わせることに重点を置くこととしました。
 

動作環境との戦い

検討会での意見をもとに、どんな技能を習得させるべきか。さらに先生方と話し合い、児童が実現させたいと考えている動作を設計図を元に絞り、主に左右上下、サイズ、回転といった操作をマニュアルとして作成し、児童に配布することとなりました。
(このマニュアルは後に効果を発揮しました)

まず児童に基本操作を使ったアニメーションを提示し、どのように動作しているかを考えさせ、意見を出させました。
児童は一つ一つの動作を見よう見まねで操作したり実際にマニュアルを見ながらプログラミングしたりしてもらいました。
その後、2回の授業を実施しましたが依然として児童機の動作は重く、児童はだんだんモチベーションを下げていってしまいました。
 
 

オンラインからオフラインへ

 
授業終了後、私はタスクマネージャを使ってCPUやメモリの状況を確認しました。するとメモリが常に80%の使用率を推移していることが分かりました。
だがこういった状態であってもメモリ増設することは予算の都合上ほぼ不可能です。
物理的な改善は出来ない。でもこの現状は改善しなければいけない。
なぜなら授業自体見込めないということは、授業計画自体を見直すことになる。
これは教員として最も避けなければならない決断です。
先生の思いを絶対無駄にしてはならない。ではどうすればいいのか。
私は焦りを感じていました。

そして一つのチャレンジに望みを託すことになりました。
それは、インターネットを使わない「オフライン版Scratch」を使うことでした。
しかし当該校の児童機は環境復元が導入されているため、インストールはできない状態です。これを解除してもらうため学校様は何度も教育委員会に連絡するものの回答は無く、日にちだけが過ぎました。

訪問から4日目、ようやく作業手順が届き、私は当初予定していなかった訪問日を設定し、環境復元の解除とインストール、復帰作業に充てました。作業はうまく進まず1日がかりとなりましたが無事児童機にインストールは完了し、翌日児童に使ってもらうことになりました。

 

動作環境の改善と大きな手応え

 

オフライン版は動作が遅いコンピュータでも快適に動くとの評判でしたが、半分期待半分不安でした。
翌日、私は内心祈る気持ちで動作を見守りましたが、確かに結果は上々で、Windows起動に若干遅さが見られたもののその後はフリーズといった不具合もなく、児童たちはマニュアルを見ながら友達と楽しそうにプログラミングに慣れ親しんでいました。

動作環境の改善が図れたことにより、先生の児童機への信頼は少しですが回復できました。
そしてこの授業を見て、私は研究授業成功に向けて手応えを感じたのと同時に、第1段階の基本技能理解から第2段階である図工科としての学習目標達成に向けて考えていく、大きなポイントに入ったことを実感しました。

その2につづく